子育て支援の必要性|孤立する母親たち(論文の参考に)

桜の木の近くで赤ちゃんを抱っこする母親

孤立する母親たちの現状

子育て不安を抱えている60%

近年、子育て不安を抱え、社会から孤立する若い母親が増えています。

結婚後、初めて子供を授かった喜びもつかの間、ままならぬ育児に戸惑い、誰にも相談できずにストレスを募らせた末、児童虐待につながるケースも少なくないといいます。
ある調査では、およそ6割の母親が何らかの子育て不安を抱えているというのです。

その背景には、核家族化に伴う子育てをする母親の孤立化、少子社会における「子育てに失敗は許されない」とする過剰な意識や、「良い子を育てなければ」という強迫観念、家族を顧みず子育てに協力的でない夫、子育て情報の氾濫による迷い、かつての地域ぐるみの子育て環境の崩壊――などの要因があるようです。

子育て支援については、現在、行政機関のみならず、NPOを含む民間組織がさまざまな施策や取り組みを実施しています。
さらには近年、全国的に「子育てサークル」(自助グループ)が多数発足するなど、地域の母親たちが寄り集い、育児情報を交換し合う場として、その輪が急激に広がっています。
とはいえ、支援体制はまだ十分とは言えないようです。

こうした現状を踏まえ、育児をする親(特に母親)が社会から孤立してしまう現実と、その背景にある社会環境を概観しつつ、いかに手を差し伸べることができるかを共に考えていきたいと思います。

子育ての悩みの相談相手がいない25%


子育てに関する深刻な問題の一つとして、母親自身が社会からの孤立感を感じていることが挙げられます。

妊娠中または3歳未満の子供を育てている母親の、周囲や世間の人々に対する意識について調査したアンケート結果(財団法人こども未来財団「子育て中の母親の外出等に関するアンケート調査」)によると、「社会全体が妊娠や子育てに無関心・冷たい」という問いに対し、「非常にそう思う」「まあそう思う」と答えた人は計44・2㌫に上っています。
また「社会から隔絶され、自分が孤立しているように感じる」の項目については、48・8㌫の人が「感じる」と回答しています。

この結果を見て分かるように、子育てをする母親が孤立感を抱く割合は全体の半分近くになっています。

実際、母親と地域社会とのつながりを示す資料「地域の中での子供を通じたつきあい」(UFJ総合研究所「子育て支援策等に関する調査研究」)では、4人に1人が「(地域に)子育ての悩みを相談できる相手がいない」、また半数以上が「自分のほかには、(地域に)子供を叱ってくれる存在がいない」と答えています。
特に核家族のケースでは、生後3カ月くらいまでは、外出もままならない状況と答えており、その割合は高いといわれています。

〝孤母〟が生まれる背景

助けを求めようとしない

なぜ母親たちは孤立してしまうのでしょうか。

1983年、東京大学大学院修士課程修了後、医師やカウンセラーなどから構成されるボランティア組織の一員として、青少年問題に取り組んできた高濱正伸・花まるグループ代表によると、いまの社会は孤母社会だといいます。

ベストセラーとなった著書『孤母社会――母よ、あなたは悪くない!』(講談社プラスアルファー新書)の中で、高濱氏は、社会的に孤立した母親を「孤母(こぼ)」と呼び、彼女たちが抱える孤独の内実と、その社会背景について詳しく述べています(高濱氏は93年に学習塾「花まる学習会」を設立し、子育て不安を抱える母親の悩みに耳を傾けてこられました)。

高濱氏によれば、近年「決して外部に助けを求めようとしない」母親が増えているといいます。
それは「現代の母親特有の生真面目さが、なお事態を悪化させる一因となっている」からであり、「理想の子育てという呪縛から逃れられず、つらく孤独な子育てのストレスを外に発することなく溜め込んでしまうのだ」と説明しています。

外の世界へ目を向ける余裕がない

では、なぜ母親たちは子育てのストレスを抱え込んでしまうのでしょうか。

高濱氏は、これを〝頼れない病〟と呼び、そうならざるを得ない理由について、次のように説明しています。

現在、幼い子供を持つ母親たちは、自身の子供時代をすでに経済的に豊かな社会の中で過ごしてきた世代であり、性格的に優しい半面、人を押しのけてでも生き抜くといったハングリー精神に欠けており、人間関係を結ぶのは総じて苦手という場合が多いといいます。
さらに、今日の「孤母」の中には、核家族が増加し始めた時代(30、40年ほど前)に生まれ、子育て不安を抱える第1世代の「孤母」に育てられたという人が多いという点を挙げています。

つまり、いまの孤母は第2世代であり、「核家族という閉じたカプセルの中で、周りとの関わりが苦手な子どもが量産されるという経済成長期の負の遺産は、いまだに長く尾を引いて、現代の子育てに悪影響を及ぼしている」というのです。

また「世代をひとつ経たことにより、ひとりきりの子育てを強いられる弧母のメンタリティは、より大きな危険にさらされて」おり、「客観的に見れば異常な家庭内の状態を温存してしまうという傾向が、弧母第一世代より強くなる」と、高濱氏は分析しています。

それゆえ、目の前のわが子の問題で必死になっている彼女たちには、外の世界へ目を向ける余裕がなく、仮にそうしようとしても、その方法と手段さえ分からないというのです。また「あの人に相談してみれば」と助言する人が側にいたとしても、コミュニケーションが苦手なため、なかなか実行に移せないといいます。

夫が話を聞いてくれない

特に、核家族で暮らす母親は「物理的にも、精神的にも外部との接触の道がほとんどない、夫婦と子どもだけの閉じた空間、いうなれば『家族カプセル』とでも呼ぶべき場所」に一人置かれることになると、高濱氏は指摘しています。

こうした状況において、夫が話を聞いてくれないなど、子育てに非協力的であれば、「母親のストレスは『内』にも吐き出せず、これで完全に行き場を失う」ということになるというのです。
そうなると、多くの母親は、夫に対する愚痴を子供と一緒に言うようになり、「話しても無駄」と見切ってしまいかねないのです。

つまり、仕事で帰宅が遅くなりがちな父親は「物質的な不在」となってしまい、やがて家庭内においても「精神的な不在」となり、「弱い父親」「頼りにならない父親」として、ただ厄介者扱いされるばかりでなく、それが原因で家庭内不和へとつながっていくといいます。

孤立がトラブルへと発展していく

働く母親と専業主婦 それぞれの不安

ここで、子育て不安を抱える人の割合が、社会で働く母親(54・2㌫)より専業主婦(79・8㌫)に多い点を見逃してはならないように思います(日本小児保健協会「幼児健康度調査」)。

子育て支援ボランティア団体「こころの子育てインターねっと関西」代表の原田正文氏(精神科医)は、母親の中には働く選択肢を断念して「やむなく」専業主婦を選ばざるを得なかったケースも増えている現状を指摘したうえで、「子育てだけでは一生をイキイキとは生きられない時代になった、ということでもあります。子育てという人生の目標がなくなった後に40年・50年という人生が残っていること、しかもその将来に展望を持てないことが、現代の専業主婦の子育てを苦しいものにしている極めて大きな要因のひとつです。(略)今の時代は、働いている女性への支援も当然必要ですが、在宅で子育てをしている母親への支援も必要なのです」と主張しています(『子育て支援とNPO――親を運転席に! 支援職は助手席に!』朱鷺書房)。

第一生命の調査(2005年8月)によると、配偶者に対して最も不満があるのは、30代の女性(73㌫)で7割強を占めています。これは女性、男性のいずれの年代と比較しても、群を抜く比率の高さとなっています(これに50代の女性が続く)。
このデータからも、子育て中の母親が、夫に対して、何らかの不満を募らせている現状が垣間見えます。

ちなみに、不満の要素としては「性格全般・金銭面の価値観の相違」(39・7㌫)、「家事の役割分担」(26・0㌫)に次いで、「子育ての役割分担」(20・5㌫)となっています。

努力だけで解決する問題ではない

では、父親が子育てに関して頼りにならないと見限った母親が、幼稚園や保育園でうまく友人をつくれなかったらどうなるのでしょうか。

高濱氏は「社会的孤立を深めた母親は、家族カプセルの中で、一対一の抜き差しならない関係性を子どもとの間につくっていく」として、こうした〝閉じた空間〟の中で児童虐待も起こりやすくなると指摘しています。

たとえば、妹がいたずらをしても慈しみのまなざしを注ぐ母親が、姉がやった途端に突き放すなど、精神的に不安定になりやすく、やがては「笑って許せる範囲を明らかに逸脱した『病んだ』レベル」に達するといいます。

高濱氏は「ひきこもりや家庭内暴力など、現代の子どもが引き起こすトラブルは、その大半が母親の内面化された孤独に起因するものである。(略)これは、母親の自助努力だけで解決するような単純な問題ではなく、現代社会全体の課題」だと警鐘を鳴らしています。

国の孤立化対策事業を活用しよう

現在、こうした子育て上の問題に対し、行政によってどのような支援策が実施されているのでしょうか。
行政による子育て支援は、母親の孤立化の対策に主な照準を合わせています。
「子育て等児童に対する相談支援事業」がそれであり、具体的には「生後4カ月までの全戸訪問事業」「地域子育て支援拠点事業」「児童委員・主任児童委員制度」「母子保健事業」などがあります。

こんにちは赤ちゃん事業

その一つ、「生後4カ月までの全戸訪問事業」(こんにちは赤ちゃん事業)は、市区町村が実施主体となっています。
全国実施率は、平成19年度で58・2㌫でしたが、平成28年度には99・5㌫まで上昇しています。

訪問内容は、子育て支援の情報提供、母親の不安や悩みを聞くこと、養育環境の把握(出産後間もない時期や養育が困難な家庭に対し、訪問による育児・家事の援助や具体的な育児に関する技術支援を実施)などであり、保健師、助産師、保育士、児童委員などが訪問に当たります。

地域子育て支援拠点事業

また「地域子育て支援拠点事業」は、親の育児不安に対応するため、地域において親子が気軽に集まる拠点を設置するものです。
子育て親子の交流、相談・援助、子育て関連情報の提供、子育てに関する講習などが行われており、実施主体は市区町村となっていますが、NPO法人や社会福祉法人への委託もなされています。
平成16年度に2千940カ所だった拠点数は、現在7千400カ所へと増加しています。

子育て支援をさらに進めていくためにも、こうした国の孤立化対策事業があるということを、より多くの人に認知してもらう必要があるのです。

支援の鍵は家庭の再構築

孤立した母親を支援する際、こうした公共施設を活用することは有効な手段となり得ることでしょう。

しかし、先の高濱氏は、まず夫が親身になって妻の子育ての悩みに耳に傾けることが大切だと強調しています。
妻も同様に、夫へのこれまでの態度を省みて、「夫を父親として復権させる」ことを心がけてもらいたいと、家庭の再構築に向けて心を合わせるよう勧めている点は興味深いところでしょう。
さらに「何かあったら相談できる『信頼できる人』がいると思えることは、心の安定の大きな礎となるであろう」と述べ、第三者となる周囲の人々が、孤立した母親に手を差し伸べることの必要性を訴えています。

その際の支援のあり方について、心理学の面から子育て支援について研究している若本純子・山梨大学教授は「親たちの前で、私たちが子育てを支援する者が、完璧な親であることを求め、自ら完璧な支援者であろうとふるまうことは、双方を評価でがんじられめにしてしまう」として、「『ほどよい』子育てを醸成しようとする私たちは、『ほどよい』支援者でありたい」と述べています(『子育て支援の心理学』有斐閣コンパクト)。

自分にできることを考えよう

子育て中の母親に、さまざま育児不安を抱え、孤立化している人が増えているいま、子育て問題にどのように向き合い、手を差し伸べていけばよいのでしょうか。
皆さんとともに、考えていきたいと思います。

みはまクラブでは随時、子育てに関する相談も受け付けています。
相談は無料。親身に悩みに寄り添い、より豊かな生活を送るための応援をさせていただきます。


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【コラム】子育て問題の背景――就労に関すること

現在の子育てにまつわる問題の背景には、就労に関する社会構造ないし社会風土的な問題があることを指摘しておきたいと思います。
それが就労する母親の育児と仕事の両立を困難にしており、必然的に、いずれかの選択を迫られるものになっているからです。

平成14年には、出産前に仕事をしていた女性の約7割が、出産を機に退職しています(厚生労働省「第1回21世紀出生児縦断調査結果」)。
その4分の1は、保育所が利用できなかったなど、仕事と子育ての両立困難を理由に辞めているのです(日本労働研究機構「育児や介護と仕事の両立に関する調査」2003年)。

また、かつては夫の収入によって家計を維持できていたものの、昨今では、一定の生活水準を保ちつつ、子供に人並みの教育を施していくには、夫の収入だけでは十分でない家庭が増えており、必然的に共稼ぎをせざるを得ないのが現状のようです。
もちろん、社会的な関わりを求めて就労する母親も少なくありませんが、いずれにせよ、母親たちが育児と仕事を両立するには厳しい状況があります。

さらに、女性の育児と仕事の両立を妨げる社会構造上の問題として、夫の就労時間の長さも挙げられるでしょう。
子育て期にある30、40歳代男性の約6・5人に1人は、週60時間以上就業しています(内閣府「平成30年度版「少子化社会対策白書」)。

こうした状況下にあって、わが国の男性の家事・育児に費やす時間は、先進国の中でも最低水準にあります。
6歳未満児を持つ男性の家事・育児時間は、日本の場合、1日当たり家事34分、育児49分、合計1時間23分。ちなみに、アメリカ人男性は全体で3時間10分(うち育児1時間20分)であり、最長のスウェーデンの場合、全体で3時間21分(うち育児1時間7分)となっています(総務省「平成28年社会生活基本調査」)。

また、男女共に、決められた退勤時間には実際に帰宅できにくい現実があります。
その結果、共働きであっても、女性の側に育児の負担がかかる傾向は変わらず、特に管理職にある女性は、男性と同様の職場負担を期待されるので、夫が全面的に協力しない限り、仕事と育児の両立が極めて困難な状況に置かれてしまうのです。
そして、専業主婦として子育てをする妻の場合も、夫の子育て時間が短くなる結果、さらに孤立感を募らせることになります。

虹と音譜が可愛いイラスト

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