子供の発達障害の種類|支援の鍵は?(論文の参考に)

小学校校舎の廊下と6年2組の教室の札

子供の発達障害7万人

文部科学省の調査(2019年)によると、発達障害を抱える小中学生の割合は約6・5㌫、1クラスに2人はいるといいます。日本全国で、およそ7万人いる計算になります。

発達障害とは、自閉症や学習障害(LD)などに類する脳機能障害のことです。
「落ち着きがない」「こだわりが強い」など、社会生活に適応するうえで、さまざまな問題を引き起こすことがあります。

2005年、こうした発達障害児を支援するための法律「発達障害者支援法」が施行されましたが、いまだ周囲の理解や支援は十分とは言えない状況にあります。
そもそも、この障害に対する正しい認識が広まっていないのが現状です。

そのため、子育て中の親の間では大きな不安が広がっています。
子供が問題行動を起こしたりすると、発達障害を心配して小児科や児童精神科を受診する母親が増えているのです。

また、発達障害と診断された場合、「私の育て方が悪かったのでは……」と自らを責め、過度のストレスを抱えて「うつ病」を発症するケースも少なくないといいます。
専門家の間では「正しい知識の啓蒙」と「家族への支援体制の充実」を指摘する声が多いようです。

そうした発達障害の子供への寄り添い方は、どうあるべきか。
また、悩みを抱える家族に対し、どのような眼差しを注ぎ、いかに手を差し伸べ、寄り添えばいいのでしょうか。その支援の道を共に探っていきたいと思います。

発達障害もさまざま

ひと口に「発達障害」と言っても、さまざまな種類があり、症状や本人への支援のあり方は異なります。
ここでは、文部科学省が報告する主な発達障害の定義を簡単に紹介します。

Ⅰ.広汎性発達障害

Ⅰ.広汎性発達障害

(ⅰ)自閉症――3歳くらいまでに現れ、①他人との社会的関係の形成の困難さ ②言葉の発達の遅れ ③興味や関心が狭く特定のものにこだわる などを特徴とする行動障害をいいます。

(例)急に予定が変わったり、初めての場所に行ったりすると、不安になって動けなくなることがある。そんなとき、周りの人が促すと、余計に不安が高まって突然大きな声を出してしまうことがある。周りの人からは「どうしてそんなに不安になるのか分からないので、何をしたらよいか分からない」と言われる。

(ⅱ)高機能自閉症――Iの症状のうち、知的発達の遅れを伴わないものをいいます。

(ⅲ)アスペルガー症候群――Iの症状のうち、知的発達に加え、言葉の発達の遅れを伴わないものをいいます。

(例)ほかの人と話しているときに自分のことばかり話してしまい、相手にはっきりと「もう終わりにしてください」と言われないと、止まらないことがある。周りの人から「相手の気持ちが分からない」「自分勝手でわがままな子」と言われてしまう。しかし、たとえば大好きな電車のことになると、専門家顔負けの知識を持っていて、友達に感心される。

Ⅱ.学習障害(LD)

Ⅱ.学習障害(LD)

基本的には、知的発達に遅れはないが、「聞く」「話す」「読む」「書く」「計算する」または「推論する能力」のうち、特定のものの習得と使用に著しい困難を示すさまざまな状態を指すものをいいます。

(例)授業中、メモを取っても、本当は書くことが苦手なため、書くことに必死になりすぎて、その内容が分からなくなることがある。

Ⅲ.注意欠陥多動性障害(ADHD)

Ⅲ.注意欠陥多動性障害(ADHD)

年齢あるいは発達に不釣合いな注意力、および衝動性、多動性を特徴とする行動の障害で、社会的な活動や学業の機能に支障をきたすものをいいます。7歳以前に現れ、その状態が継続するものです。

(例)代表的なものが、授業中に勝手に教室を歩き回る子供の存在である。また、予定を忘れたり、大切なものを置き忘れたりすることがよくある。周りの人にはあきれられ、「何回言っても忘れてしまう子」とレッテルを張られてしまう。

発達障害は「発達の凸凹」

小学1年生の10人に1人がADHD

上述したのは、あくまで一例であり、その特性だけをもって発達障害と断定するものではありません。

また、どんな能力に障害があるのか、どの程度なのかについては個人差があり、なかには二つ以上の障害を併せ持つケースなど、さまざまな組み合わせの形が起きるといわれています。

冒頭にも記したように、発達障害は「脳機能障害」であり、中枢神経系に何らかの要因による機能不全があると推定されています。
しかし一部では、優れた能力を発揮する場合もあり、周囲の人から見て、アンバランスな様子が「障害」そのものであることを一層理解しにくくしているのです。

事実、05年の「発達障害支援法」施行以前、この障害は、非常に重い症状だけが支援の対象とされていたため、比較的軽い場合は、そのことに気づかれることなく、青年期、成人期を迎えたというケースも多いといいます。

文部科学省の調査では、こうした特性を持つ人は稀な存在ではなく、注意欠陥多動性障害(ADHD)の生徒の割合は、小学1年生で10人に1人はいるといわれるなど、身近に存在することが明らかになっています。

誤った認識が広がる中で

これらの発達障害に関しては、これまでさまざまな誤った認識が広がっていました。

「親の育て方が悪いため」「本人のわがままな性格が原因」といった誤解がある中で、その典型的な一つが「発達障害は一生治らないし、治療方法はない」というものです。

発達障害の分野の第一人者である、精神科医の杉山登志郎氏によると、発達障害は「(完治はしないが)改善が大多数の場合には実現可能である」といいます。

杉山氏は著書『発達障害の子どもたち』(講談社現代新書)の中で、発達障害を「『発達の凸凹』という意味」と表現しており、「子どもは発達してゆく存在であり、発達障害の子どもたちも当然、日々発達してゆく、その過程で、凸凹や失調は全体としては改善をしてゆくのが普通である」と述べています。
しかし、個人差があるため、すべてのケースが改善するとは言いきれないと杉山氏は付け加え、「できるだけ早い時期からリハビリテーションに邁進することが重要」と強調しています。

発達障害児とその親をめぐって

本人や親がうつ状態になるケースも

このように、障害のタイプや個人差によって異なるものの、発達障害児は、生活を送るうえでさまざまな困難を感じており、うつ病などを併発するケースも多く報告されています(コラム 発達障害が原因で生じる症状)。

同様に、その親や家族も、子供が起こすトラブルや、将来への不安などによって心身ともに疲弊し、うつ状態に追い込まれていくケースが少なくないといいます。

愛着形成を築きにくいという問題も

先の杉山氏は、育児に絡む大きな問題の一つが「愛着形成の遅れ」にあると指摘しています。

発達障害児は、幼児期における「愛着関係」(ほかの人と愛情の絆を結びたいという要求をもっている状態。幼児期において形成されていくもので、生後6カ月前後から出現1~2歳でピークに達する)を築きにくいことから、親や家族は「私の育て方が悪いのでは……」と自分を責めてしまうといいます。

「健常児においては、2~3歳において完成する愛着の形成が、発達の障害を持つ児童の場合、特に広汎性発達障害の子どもたちにおいて、知的な遅れがない場合でも、より後年にずれることはまれではない。これは親の側に欲求不満を作ってしまい、子ども虐待に結びつきやすい」と、杉山氏は親の抱えるストレスが児童虐待につながる危険性を指摘しています。

虐待体験が症状を生み出す原因にも

杉山氏が診察していた施設の「子育て支援外来」には、毎年140人前後の被虐待児が来院していたそうです。
杉山氏によると、「その(被虐待児の)中に、数多くの発達障害児が存在することが分かった」というのです。

具体的には、施設開院後5年間に診療した虐待患児575人中、広汎性発達障害が見られたのは全体の24㌫、注意欠陥多動性障害(ADHD)が20㌫と、合わせて44㌫を占めたといいます。

虐待患児のうち、なんらかの発達障害と診断される子供は54㌫。その中で、知的障害を伴うものは非常に少なく、その85㌫までがIQ70以上であったそうです。

これらのデータをもとに、杉山氏は「発達障害、中でも軽度発達障害は虐待を招く可能性が高いことは明らかである」と報告しています。

そのうえで、「ここに原因と結果を巡るニワトリ-タマゴ論争が勃発する」と杉山氏は述べています。

そして、虐待体験が発達障害のような症状を生み出す原因になっていることを示唆したうえで、「一般的な発達障害よりも子ども虐待のほうがより広範な脳の発達の障害をもたらすことが示された」とのデータを紹介しています。

そして、杉山氏は「被虐待児とは、(発達障害と)同じ症状を示し、同じように変化をしていく、一つの発達障害症候群として捉えるべきではないかと考えるようになった」との意見を示しています。

こうした被虐待児の心の傷のケアについて、杉山氏は「第一に安心して生活できる場の確保、第二に愛着の形成とその援助、第三に子どもの生活・学習支援、第四に初めて精神療法が登場する」の四点を挙げたうえで、親の側も支援が必要であることにふれ、「可能であれば親子を一緒にサポートし、親子が共に、より幸福な道に歩みを進めることができればそれに勝るものはない」としています。

家族支援の際は共感的な理解を

正しい知識を得て 慎重に対応しよう

では、こうした状況をいかに支援すればいいのでしょうか。

杉山氏はまず、①両親が正しい知識を得ること ②親子ともに互いに時間をかけて付き合うこと――の重要性を挙げます。

つまり「愛着の過程を進めるためには、特に子ども発達の凸凹が著しい場合には、両親が子どもと向かい合う時期があったほうが良い」のですが、実際には「発達の凸凹を抱えた子と、それに不安を持つ親が家庭という密室で向かい合っていたら、それこそ子ども虐待のリスクが高くなってしまう」という現実に鑑み、慎重な対応を求めているのです。

子供が安心できる家庭環境づくりを

杉山氏は、発達障害が生来のものであれ、虐待が原因で発症したものであれ、「幼児にとっていちばん必要なものは、障害の有無に関わりなく安心の提供である」として、子供にとって安心して過ごせる家庭環境づくりに心がけることを促しています。

また「夫婦の深刻な喧嘩が繰り返される状態は、安心できる環境の対極にあり、心理的虐待の一種である。実は親子関係の安定以前に、夫婦関係が安定していることがもっとも大きな要因となる」と指摘している点は興味深いところです。

悩みを相談してもらえるような関係に

現代の多くの母親はいま、子育て不安を抱えており、誰にも相談できず社会から孤立しやすい状況に置かれています。

こうした現状を踏まえ、識者たちは、親の精神的なストレスを少しでも解消する必要性を訴えるとともに、支援の壁となるものとして「周囲の無理解」を挙げ、「親のしつけが悪い」「本人がわがままなだけ」といった言葉が、ただでさえ疲弊している親の心に一層ダメージを与える結果になると警鐘を鳴らしています。

また、家族支援の際には、保護者の苦悩や葛藤を、まずは共感的に理解していくこと、子供の肯定的な部分を伝えたりすることによって、子育てへの見通しを持てるように援助していくことが重要であると、支援する際のポイントを挙げています。

わが子の問題というのは、周囲に知られたくないというのが親の心情です。それゆえ、周りからは見えにくい問題であり、支援に際しては、そうした親の心理にも十分な配慮が必要になることでしょう。
普段から信頼して悩みを相談してもらえるような関係を築くとともに、慎重な対応を心がけることが求められているのです。

発達障害の子供を抱える親が、子育てに不安やストレスを抱え、場合によっては、児童虐待にもつながる可能性をはらむ中で、こうした現状にどのように向き合い、手を差し伸べていけばよいのでしょうか。皆さんとともに、考えていきたいと思います。

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【コラム】発達障害が原因で生じる症状

精神科医の杉山登志郎氏によると、「従来、情緒障害を考えられていたグループに関して、特に重症の症例において基盤に高機能広汎性発達障害を持つ児童が存在することが明らかになってきた」といいます。
つまり、不登校をはじめ、やせ症、強迫性障害、解離性障害、うつ病などの症状がある場合、発達障害が原因で生じていることがあると指摘しているのです。

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